犬は人のように少々気持ちが悪い程度で自覚症状を表現してくれません。激しい痛みの場合に呻ったり、震えたり、陰鬱な表情になったりしますが、それらを示すときは既によほどつらいとき。
人にも犬にも言えることですが、病気は早期発見が大変重要です。定期的な健康診断、外観の観察、食欲、便や尿の状態、呼吸、脈拍、体温、表情などによって、多くの病気は早期発見が可能です。いつもそばにいる飼い主が犬の様子から体調の変化を察し、心配なことがある場合はできるだけ早く対処してあげたいものです。
犬の健康なときの”いつもの”状態を把握していることが最も大切です。
元気なときの平熱、脈拍、呼吸、健康に問題がないときの生化学検査の結果など、把握してあげてくださいね。平熱や安静時の正常な脈拍、呼吸数、血小板の数値、口・耳・肛門など可視粘膜の色等、意外と個体差があるのです。
体温
犬は通常体温計を肛門に挿入し、直腸温を測定します。
※安静時の犬の直腸温は37.5〜39度。興奮したときや暑いとき、運動後などは上昇します。大型犬よりも小型犬のほうが体温が高いです。
※直腸温で41〜43度の高熱が数時間続くと生命が危険な状態になります。
※内股での計測もできます。寝かせたり、安定した姿勢にして、後足大腿部の内側と腹側に体温計を挟み、後足を外側から押えます。
脈拍
内股にある股動脈で計測しますが、わかりにくい場合は心音を聴診します(安い聴診器でもちゃんと計測できます)。
犬の平均脈拍数(安静時):70〜180回/分
※興奮したときや暑いとき、運動後などは上昇します。また、小型犬や若い犬のほうが多く、大型犬や老犬のほうが少ないです。
※脈拍数が異常に増加している状態を頻脈、減少している状態を徐脈といいます。
呼吸数
呼吸数は原則として安静時に測定し、1分間の呼吸の回数であらわします。
平均呼吸数(安静時):20〜40回
チェックポイント
※一例です。この限りではありませんので心配な場合はかかりつけの動物病院で受診して下さい
眼 | ・涙や目やにが出ているのは食べ過ぎや運動不足なども考えられる。 ・胃腸が健全でないときは目頭に涙やけができやすい。 ・熱がある場合は眼瞼結膜の充血がおこる(指先で軽く下瞼を下方に広げてみるとわかります)。 ※健康な時の粘膜の色を知っておく必要があります ・腸炎でも充血がみられる。 ※犬には眼瞼の内側にもうひとつ瞬膜という白い眼瞼があり、眼を閉じると左右から眼球を被うようになっています。具合の悪いときには眼を開いていてもこの瞬膜が半分近く被さっていたりすることがあります。 |
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口 | ・寄生虫や栄養不足で貧血になると口の粘膜の色がピンクではなく白っぽくなる。 ・発熱や胃腸障害で口が粘ったり臭かったり、涎を垂らしたりする。 ※最も注意しなくてはならないのが運動後舌や口の粘膜の色が瞬間的にでも白っぽくなること(いわゆるチアノーゼ)で、心臓にトラブルが起きている兆しです |
毛 | ・艶があって滑らかにねているのが正常。不健康なときは毛がざらついて立ち気味。 |
元気 | ・”平常の様子”と比べて判断する(いつも呼べばシッポをふってすっとんでくる犬がいやいや立ち上がりとぼとぼ歩いてくるなど) |
食欲 | ・食べ方には個体差があり、小型犬のひとりっこの場合はのんびり食べたり遊び食いしたりする子もいますが、基本ガツガツしているくらいのほうがよい。食べなかったり、食べ残したり、吐いたりするのは食物や量が不適当または胃腸障害の可能性も。 |
便 | ・食欲と関連して犬の健康状態を知るカギ。過食、胃腸障害、栄養不足、寄生虫などさまざまな不調が便に出る。※便の状態で食物の内容や量を再考し、寄生虫の検査などをする必要があります。 |
跛行 | ・足や足先の痛みにより跛行が生じることがある。 ※跛行(はこう)とは外傷、奇形、その他疾患により正常な歩行ができない状態をさし、疲労や老化は含めません。 |
そう痒 | ・いつもよりこすったりひっかいたり、脱毛がある。疥癬、ノミ、アレルギーなどの皮膚関連による疾病によることが多い。 |
その他 | ・あくび、せき、くしゃみ、しゃっくり、げっぷ、いびき。 ※犬はよくあくびをします。例えばカーミングシグナル(相手に落ち着いて欲しいときやストレスを感じているとき)、疲れたとき、退屈なとき、興奮したときなど。また、気分が悪いときにもあくびをします。あまりたびたびあくびをするような場合は、気をつけて様子を見ていたほうがよいです。 ※フィラリアの寄生虫やその他心臓病など循環器系のトラブルをおこしている場合、大変苦しそうに咳をします(喉の奥から何か吐き出そうとするように異様な声を出して咳をしたり、声がかれてチアノーゼを起こしたり)。 |
老犬になるとさらにチェックポイントが多くなります。後日加筆します。とにかく、どの年齢の犬にしても健康な状態の把握が些細な異常の早期発覚に結びつくということを、強く申しあげておきたいです。
書籍やネットで得た知識で素人判断は禁物ですが、読み物として、犬にどんな病気があるか、獣医で処方される薬はどのようなものか知っておくのもよいとおもいます。診察中に「なにか質問はありますか?」ときかれても何を聞いてよいのかもわからない状態は飼い主にとってとても不安を感じる状況ではないでしょうか?
獣医で診察を受け薬の処方がある場合、薬の飲み方(食前食後回数等)・薬に期待する効果・副作用等の説明があるかとおもいますが、万一説明がない場合は説明を求め、処方される薬剤の一般名をたずねておくとよいです(引越し等で獣医を変更する場合に役立ちます)。
参考文献:犬を飼う知恵(平岩米吉著)・ドッグケア(監訳:梶ヶ谷博)
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